「可愛い息子に、少しでも多くの財産を非課税で渡したい」

お子さんを持つ親御さんなら、誰もが一度は考えることではないでしょうか。生前贈与は、将来の相続税対策として非常に有効な手段ですが、その制度は複雑で分かりにくいものも少なくありません。
特に2024年から制度が改正され、「結局どの方法が一番お得なの?」と悩んでいる方も多いはずです。
そこで今回は、お父様からは「相続時精算課税制度」を、お母様からは「暦年贈与」を、それぞれ活用して一人息子さんに毎年110万円ずつ贈与(合計220万円)するという、非常に賢いモデルケースを基に、その具体的な方法とメリット・デメリットを徹底解説します。
この記事を読めば、ご自身の家庭に最適な生前贈与の形が見えてくるはずです。
登場人物の整理
まずは、今回のモデルケースの登場人物と贈与の形を確認しましょう。
- お父様 → 一人息子さんへ:相続時精算課税制度を利用して毎年110万円を贈与
- お母様 → 一人息子さんへ:暦年贈与を利用して毎年110万円を贈与
- 一人息子さん:お父様とお母様から、それぞれ年間110万円、合計220万円を毎年受け取る
このように、贈与する人(お父様・お母様)ごとに、異なる制度を選択して併用することが可能です。これが今回の賢い贈与の最大のポイントです。
2つの贈与制度の基本
まず、それぞれの制度の基本的な仕組みを理解しましょう。
母親からの「暦年贈与」とは?
「暦年贈与」は、多くの方が耳にしたことのある、最も一般的な贈与方法です。
- 内容: 1月1日から12月31日までの1年間に贈与された金額の合計が110万円までであれば、贈与税がかからず、申告も不要という制度です。
- ポイント: 誰から(複数の人から)贈与を受けても、受け取った側(息子さん)の合計金額で計算します。
父親からの「相続時精算課税制度」とは?
少し複雑ですが、非常に強力な制度です。特に2024年の改正で、使い勝手が大幅に向上しました。
- 内容: 原則として、60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子供や孫へ贈与する場合に選択できます。
- ① 2,500万円の特別控除: 生涯を通じて合計2,500万円までの贈与が非課税になります。超えた分は一律20%の贈与税がかかります。
- ② 110万円の基礎控除(2024年〜): 上記の特別控除とは別枠で、年間110万円までの贈与なら贈与税がかかりません。さらに、この110万円は将来の相続財産に加算されません。
- ポイント: この制度を一度選択すると、同じ人(お父様)からの贈与は、二度と「暦年贈与」に戻ることはできません。
【徹底比較】手続きの違いは?
では、お母様からの「暦年贈与」とお父様からの「相続時精算課税」、それぞれの具体的な手続きの違いを見ていきましょう。
項目 | 母親からの「暦年贈与」(年間110万円) | 父親からの「相続時精算課税」(年間110万円) |
贈与契約書 | 毎年作成を強く推奨 | 毎年作成を強く推奨 |
贈与税の申告 | 原則、不要 | 初年度のみ必須、翌年以降は110万円以下なら不要 |
必要な書類 | 特になし (贈与契約書は保管) | 【初年度】 ・相続時精算課税選択届出書 ・受贈者(息子)の戸籍謄本など |

手続きのポイント解説
- 贈与契約書はどちらも必須! 税務署から「これは本当に贈与ですか?(名義預金ではないですか?)」と指摘されないために、贈与の証拠として「贈与契約書」を毎年必ず作成しましょう。親子間であっても、形に残すことが非常に重要です。
- 父親(相続時精算課税)は初年度の申告がカギ! 相続時精算課税制度を利用するためには、最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、必ず税務署へ「相続時精算課税選択届出書」を提出しなければなりません。この手続きを忘れると、自動的に「暦年贈与」とみなされ、お母様からの110万円と合算して贈与税が課されてしまうので、絶対に忘れないでください。 一度届出をすれば、翌年以降、贈与額が110万円の基礎控除の範囲内であれば申告は不要です。
メリットとデメリットを解説
この組み合わせには、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
息子さん側から見た全体のメリット
- 毎年220万円を非課税で受け取れる: 父親と母親からそれぞれ110万円ずつ、合計220万円が毎年非課税で贈与されます。
- 将来の相続財産を確実に減らせる: 父親からの110万円(相続時精算課税の基礎控除分)と、母親からの110万円(暦年贈与)は、どちらも(※)将来の相続財産に加算されないため、相続税対策として非常に有効です。
(※暦年贈与は、相続開始前7年以内の贈与が相続財産への加算対象となります)
母親からの「暦年贈与」
《メリット》
- 手続きが簡単: 年間110万円以下であれば申告が不要で、毎年手軽に続けられます。
- 柔軟性が高い: 今年は贈与するけれど、来年はやめるなど、状況に応じて柔軟に判断できます。
《デメリット》
- 相続開始前7年以内の贈与は加算対象: 万が一、お母様が贈与後7年以内に亡くなられた場合、その期間の贈与額は息子さんの相続財産に加算されてしまいます。(2024年からの段階的改正)
- 一度に大きな金額は贈与できない: 非課税枠は年間110万円に限られます。
父親からの「相続時精算課税制度」
《メリット》
- 年間110万円は相続財産に加算されない: 2024年からの新制度により、年間110万円の基礎控除分は、相続開始前7年以内といった期間に関わらず、将来の相続財産に加算されません。これが最大のメリットです。
- 将来値上がりする財産に有利: 制度の対象となる贈与財産は、相続時に「贈与時の時価」で評価されます。そのため、将来値上がりが確実な株式などを贈与しておけば、相続時の評価額を低く抑えることができます。
- いざという時、大きな金額を贈与できる: 2,500万円の特別控除枠を使えば、住宅取得資金など、まとまった資金が必要になった際に大きな金額を非課税で贈与できます。
《デメリット》
- 暦年贈与に戻れない: 一度この制度を選択すると、お父様からの贈与は二度と暦年贈与に戻れません。
- 初年度の申告が必須: 利用を開始するには、必ず申告手続きが必要です。
- 小規模宅地等の特例が使えない: 相続時精算課税制度で贈与した土地には、将来の相続で「小規模宅地等の特例」が適用できなくなるため注意が必要です。

まとめ:この組み合わせは、まさに「いいとこ取り」!
今回ご紹介した【父:相続時精算課税 + 母:暦年贈与】の組み合わせは、
- 母親からの暦年贈与で手軽さを維持しつつ、
- 父親からの相続時精算課税(基礎控除活用)で、相続開始直前の贈与であっても確実に相続財産から切り離す
という、それぞれの制度のデメリットを補い合い、メリットを最大限に活かした非常に賢い方法と言えます。
生前贈与は、ご家庭の資産状況や家族構成によって最適な形が異なります。今回の記事を参考に、まずはご家族で話し合ってみてはいかがでしょうか。
そして、実行する際には、贈与契約書の作成や申告手続きなど、間違いがあってはなりません。少しでも不安な点があれば、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
賢い知識を身につけて、大切なご家族へのスムーズな資産承継を実現してください。