題名:生命保険の加入と見直しの注意点:50代の夫と子育て世帯の必要保障額を考える

目次
- はじめに:ライフステージに合わせた保険の見直し
- 前提条件の確認と必要保障額の考え方
- モデルケースの家族構成と経済状況
- 生命保険で備えるべき「必要保障額」とは
- 公的年金制度の理解:遺族年金の計算と注意点
- 遺族基礎年金と遺族厚生年金
- 遺族年金と子ども、配偶者の年齢
- 遺族年金受給における特有の加算制度と注意点
- 中高齢寡婦加算:妻の年齢に注意
- 「経過的寡婦加算」と妻の老齢基礎年金
- 自営業者と会社員で大きく異なる保障:公的保険の違い
- まとめ:計画的な見直しで安心を
1. はじめに:ライフステージに合わせた保険の見直し
生命保険は、万が一の際に残された家族の生活を守るための大切な備えです。しかし、一度加入したら終わりではありません。結婚、出産、住宅購入、子どもの独立など、ライフステージが変化するたびに見直しが必要になります。
特に、子どもがまだ小さい50代の夫婦の場合、残りの教育費や妻の老後資金まで考慮に入れた、計画的な保障額の確保が不可欠です。本記事では、具体的なモデルケースを通じて、生命保険の必要保障額の考え方と、公的な遺族年金制度との兼ね合いで注意すべきポイントを解説します。
2. 前提条件の確認と必要保障額の考え方
モデルケースの家族構成と経済状況
| 項目 | 年齢/状況 |
| 夫 | 50歳、会社員、所得年収600万円 |
| 妻 | 45歳、専業主婦 |
| 子ども | 5歳(未就学児) |
| 想定される夫の死亡年齢 | 55歳 |

生命保険で備えるべき「必要保障額」とは
生命保険の必要保障額は、「残される家族が必要とする資金の総額」から「現在ある貯蓄や公的制度から受け取れる資金の総額」を差し引いた差額です。
{必要保障額} = {(遺族の必要資金総額)} – {(貯蓄・公的保障など受け取れる資金総額)}
遺族の必要資金(例)
- 葬儀費用
- 生活費(子どもが独立するまで、妻の老後まで)
- 教育費(幼稚園から大学まで)
- 住宅ローン残債(団信で完済する場合を除く)
受け取れる資金(例)
- 現在の貯蓄、退職金
- 公的年金(遺族基礎年金・遺族厚生年金)
公的年金制度を理解し、「不足する期間」と「不足する金額」を明確にすることが、過不足のない保険加入の鍵となります。
3. 公的年金制度の理解:遺族年金の計算と注意点
夫が会社員(厚生年金加入者)の場合、妻と子どもは「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類を受け取れます。
遺族基礎年金と遺族厚生年金
| 年金の種類 | 加入者の条件 | 受給者の条件 | 特徴 |
| 遺族基礎年金 | 全ての公的年金加入者 | 「子どものいる配偶者」または「子ども」 | 子どもが18歳到達年度の末日(約18歳の3月31日)を迎えるまで支給。 |
| 遺族厚生年金 | 厚生年金加入者 | 配偶者、子ども、父母など | 遺族基礎年金と比べて長く(妻の生涯)、金額も高くなる可能性。 |
【モデルケースでの受給の注意点】
夫が55歳で死亡した場合、妻(45歳)、子ども(10歳)となります。
- 遺族基礎年金:子どもが18歳の年度末を迎えるまでの約8年間支給されます。
- 遺族厚生年金:妻が生涯受け取れますが、「子どものいない期間」の受給に注意が必要です。
遺族年金と子ども、配偶者の年齢
【最も保障が手薄になる期間:子のない寡婦の期間】
子どもが18歳の年度末を迎え、遺族基礎年金の支給が終了すると、妻が受給できるのは遺族厚生年金のみとなります。このとき、妻の年齢が55歳未満である場合、さらに大きな問題が生じます。
4. 遺族年金受給における特有の加算制度と注意点
遺族年金制度には、特定の条件下で加算される制度があり、これらを知らないと保障額の計算を誤る原因になります。
中高齢寡婦加算:妻の年齢に注意
「中高齢寡婦加算」は、遺族基礎年金を受給できない子のいない妻が、夫の死亡時に40歳以上65歳未満である場合に、遺族厚生年金に加算される年金です。
- 支給条件:子どもが18歳年度末を迎え、遺族基礎年金が終了した時点の妻の年齢が40歳から65歳未満であること。
- モデルケースの場合:夫55歳死亡、妻45歳、子ども10歳。
- 子どもが18歳になるのは妻53歳の時。
- このとき、妻は40歳以上65歳未満であるため、遺族基礎年金が終了すると同時に、中高齢寡婦加算(年間623,800円※令和7年度)が加算され、65歳になるまで支給されます。
【注意点】 この加算は65歳で終了します。

「経過的寡婦加算」と妻の老齢基礎年金はどっち?
中高齢寡婦加算が65歳で終了すると、妻は自身の老齢年金(老齢基礎年金)を受け取り始めます。しかし、専業主婦期間が長い妻の場合、老齢基礎年金が満額に届かないことがあります。
その対策として、「経過的寡婦加算」という制度があります。
- 経過的寡婦加算:中高齢寡婦加算を受けていた妻が65歳になった際、65歳から自身の老齢基礎年金に上乗せされるものです。
- 経過的寡婦加算を受け取るための要件:65歳以上の女性であること・1956年4月1日以前に生まれている事・亡くなった夫の厚生年金加入期間が原則20年を超えていなければなりません。
- 目的:老齢基礎年金の満額受給権を得るまでの過渡期的な措置であり、老齢基礎年金と合わせて、旧法の遺族年金水準を保つことを目的としています。
【ポイント】
遺族基礎年金が終了する53歳から、妻の老後の生活設計を念頭に、「65歳までの不足額」、そして「65歳以降の老齢年金の不足額」を計算し、必要な保障額を確定させることが重要です。
5. 自営業者と会社員で大きく異なる保障:公的保険の違い
夫が自営業者(国民年金のみ加入)であった場合と、会社員(厚生年金加入)であった場合では、遺族年金制度に大きな差が出ます。
| 項目 | 会社員(厚生年金加入) | 自営業者(国民年金のみ) |
| 遺族年金の種類 | 遺族基礎年金 + 遺族厚生年金 | 遺族基礎年金 のみ |
| 妻の保障(子の独立後) | 遺族厚生年金 + 中高齢寡婦加算(65歳まで) | 遺族年金の保障は基本的に無し |
| 保険で備えるべき額 | 厚生年金分だけ保障額が減る | 会社員よりも大幅に高額になる |
自営業者の場合、子どもが独立すると同時に、妻が受給できる公的年金はほぼなくなります(妻自身が加入・納付した国民年金分のみ)。生命保険で備えるべき保障額は、会社員のケースよりも遥かに高額になることを認識しておく必要があります。
6. まとめ:計画的な見直しで安心を
生命保険の見直しは、「残りの教育費」と「妻の老後資金」の2つが大きな柱となります。
公的年金制度の注意点である「子どもが18歳を超え、妻が65歳になるまでの間の不足」(中高齢寡婦加算の終了や有無)を正確に把握し、その期間をカバーできるよう、必要な死亡保障額を算出しましょう。
保障額は家族構成や収入の変化に応じて増減します。現在の保険が本当に必要な保障額を満たしているか、あるいは払い過ぎていないか、少なくとも5年ごとや大きなライフイベントごとにクレインで一緒に確認しましょう~

