📝 サクッとわかる!簡単要約
病気やケガで医療費が高額になっても、ご安心ください! 日本には、医療費の自己負担額に上限を設ける「高額療養費制度」があります。
この制度のおかげで、所得や年齢にもよりますが、窓口で一時的に多額の費用を支払ったとしても、後日、上限額を超えた分が払い戻されます。例えば、69歳以下の一般所得者(年収約370万円〜770万円)の場合、月の自己負担目安は約8万円台に抑えられます。
本記事を読めば、あなたの所得区分に応じた限度額を把握でき、公的な支援を前提とした合理的な医療費対策と民間保険の見直し方が分かります。
📚 目次
- 高額療養費制度の基本💡
- 1-1 制度の目的と仕組み
- 1-2 対象となる費用は公的医療保険が適用される診療
- 1-3 公的医療保険が適用されない費用は対象外
- 1-4 制度の適用タイミングは2パターン(事後申請・事前申請)
- 69歳以下の所得別の自己負担限度額📈
- 2-1 健康保険加入者(会社員・公務員など)の区分
- 2-2 国民健康保険加入者(自営業者など)の区分
- 2-3 一般区分の計算シミュレーション例
- 70歳以上の所得別の自己負担限度額さらに医療費負担を抑えられる仕組み
- 3-1 多数回該当:4回目以降の限度額引き下げ
- 3-2 世帯単位の合算:家族の医療費をまとめて計算
- 3-3 健康保険組合の付加給付:組合独自の優遇
- 3-4 高額長期疾病の特例
- 3-5 高額介護合算制度
- 3-6 高額医療費貸付制度
- 3-7 医療費控除との関係
- 自己負担額の計算と還付の流れ
- 4-1 計算の基本ステップ
- 4-2 月単位での集計が重要
- 還付申請手続きの流れ(加入保険別)
- 事前申請で窓口負担を抑える方法
- 6-1 限度額適用認定証を用意する
- 6-2 マイナ保険証を用意する
- 6-3 減額認定証を取得する
- 高額療養費制度を理解したうえでの医療保険の見直し戦略
- 7-1 公的制度を前提にリスクへ備える
- 7-2 民間医療保険の役割を理解する
- 高所得層の備え方
- 自営業者の備え方

1. 高額療養費制度の基本💡
1-1 制度の目的と仕組み
高額療養費制度とは、公的医療保険に加入している方が、医療機関や薬局の窓口で支払った医療費が、1か月(暦月:1日から末日まで)で一定額を超えた場合に、その超過分が払い戻される制度です。
制度の目的は、高額な医療費によって家計が破綻するのを防ぎ、患者さんの経済的な負担を軽減することにあります。
- 仕組みのイメージ
- 病院の窓口で、一時的に通常の自己負担割合(3割など)で支払います。
- 1か月間の自己負担額が、所得や年齢に応じた上限額を超えているかを確認します。
- 超えていた場合、加入している保険者(健康保険組合、市区町村など)に申請することで、超過分が高額療養費として後日払い戻されます。
1-2 対象となる費用は公的医療保険が適用される診療
高額療養費制度の対象となるのは、公的医療保険が適用される診療にかかった費用のみです。
- ✅ 対象となる費用(自己負担額)の例
- 診察料、検査料、手術料、入院料
- 処方された薬剤費
- 複数の病院や薬局での支払いも合算可能
- ✅ 計算時のポイント
- 外来の場合:病院での支払いと、院外処方箋による薬局での支払いを合算して計算します。
1-3 公的医療保険が適用されない費用は対象外
以下の費用は、患者さんの選択や保険適用外の治療であるため、高額療養費制度の対象外となり、全額自己負担となります。
| 対象外となる費用の例 | 概要 |
| 差額ベッド代 | 個室や少人数部屋を希望した際の追加料金。 |
| 先進医療の技術料 | 厚生労働大臣が定める保険適用外の高度な医療技術にかかる技術料。 |
| 入院時の食事代 | 1食あたり510円(一般所得者)などの標準負担額。 |
| 自由診療 | 美容整形、インプラントなど、公的医療保険が適用されない診療。 |
1-4 制度の適用タイミングは2パターン(事後申請・事前申請)
高額療養費制度の適用には、以下の2つの方法があります。
| 適用パターン | 支払いの流れ | メリット | デメリット |
| 事後申請(還付) | 窓口で全額支払い →後日、超過分が払い戻し | 特になし | 一時的に高額な資金が必要。還付まで約3か月かかる。 |
| 事前申請(現物給付) | 窓口で上限額までの支払い → 後日、還付手続き不要 | 一時的な立て替えが不要。 | 事前の申請手続きが必要。 |
📌 事前申請のポイント
事前に「限度額適用認定証」を取得して窓口で提示するか、マイナンバーカードを健康保険証として利用(マイナ保険証)すれば、支払いが最初から自己負担限度額までで済みます。

2. 69歳以下の所得別の自己負担限度額📈
69歳以下の方の自己負担限度額は、以下の通り所得に応じて5つの区分に分かれています。
【69歳以下の方の自己負担限度額(月額)】
| 所得区分 | 年収目安 | 自己負担限度額(A) | 多数該当※2(B) |
| 区分ア | 約1,160万円~ | 252,600円+(総医療費※1-842,000円)×1% | 140,100円 |
| 区分イ | 約770万円〜1,160万円 | 167,400円+(総医療費※1-558,000円)×1% | 93,000円 |
| 区分ウ (一般) | 約370万円〜770万円 | 80,100円+(総医療費※1-267,000円)×1% | 44,400円 |
| 区分エ | 約370万円未満 | 57,600円 | 44,400円 |
| 区分オ (低所得) | 住民税非課税 | 35,400円 | 24,600円 |
※1 総医療費とは保険適用される診療費用の総額(10割)です。
※2 医療を受けた月以前の1年間に、3ヵ月以上の高額療養費の支給を受けた場合には、4ヵ月目から「多数該当」となり、自己負担限度額がさらに軽減されます。
👉 計算式の読み方
限度額(A)は「基本額」と「医療費総額に応じた加算額」で構成されています。医療費が高くなるほど、上限額もわずかに上がりますが、それでも大きな負担軽減になります。
2-3 一般区分の計算シミュレーション例
最も該当者が多い区分ウ(年収約370万円〜770万円)で、医療費総額が100万円かかった場合のシミュレーションです。
| 項目 | 金額 | 計算式 |
| 窓口での自己負担(3割) | 300,000円 | 1,000,000円 ×30% |
| 自己負担限度額 | 87,430円 | 80,100円 + (1,000,000円 – 267,000円) ×1% |
| 高額療養費として支給される額 | 212,570円 | 300,000円 – 87,430円 |
| 実質的な自己負担額 | 87,430円 |
窓口で30万円支払っても、最終的な負担は87,430円に抑えられます。
3. 70歳以上の所得別の自己負担限度額
70歳以上の方の限度額は、69歳以下とは異なり、外来のみの個人単位の上限が設定されているのが特徴です。
【70歳以上の方の自己負担限度額(月額)】
| 所得区分 | 外来(個人ごと) | 外来+入院(世帯ごと) | 多数回該当時 |
| 現役並み所得Ⅲ 約1,160万円~ | 計算式は69歳以下区分アと同じ | 140,100円 | 140,100 |
| 現役並み所得Ⅱ 約770万円〜1,160万円 | 計算式は69歳以下区分イと同じ | 93,000円 | 93,000 |
| 現役並み所得Ⅰ 約370万円〜770万円 | 計算式は69歳以下区分ウと同じ | 44,400円 | 44,400 |
| 一般 約156万円~370万円 | 18,000円(年額上限144,000円) | 57,600円 | 44,400円 |
| 住民税非課税世帯Ⅱ※3 | 8,000円 | 24,600円 | - |
| 住民税非課税世帯Ⅰ※4 | 8,000円 | 15,000円 | — |
※3 被保険者が市区町村民税の非課税者等である場合です。
※4 被保険者とその扶養家族全ての方の収入から必要経費・控除額を除いた後に所得がない場合です。
さらに医療費負担を抑えられる仕組み
高額療養費制度以外にも、負担を軽減する複数の仕組みがあります。
3-1 多数回該当:4回目以降の限度額引き下げ
過去12か月以内に高額療養費の支給を3回以上受けた場合、4回目以降は自己負担限度額がさらに引き下げられます。
- 一般所得者(区分ウ)の例:
- 通常の上限額:約8万円台
- 多数回該当の上限額:44,400円
- 長期的な治療や慢性疾患を持つ方にとって、特に大きな負担軽減となります。
3-2 世帯単位の合算:家族の医療費をまとめて計算
同じ公的医療保険に加入している家族が、同じ月内に医療費を支払った場合、その自己負担額を合算して上限額を適用できます。
- 合算の条件
- 同じ医療保険に加入していること(例:夫が社会保険、妻が国保の場合は合算不可)。
- 69歳以下の場合、合算できるのは1つの医療機関で21,000円以上の自己負担額があったものに限られます。
- 70歳以上は金額に関係なく合算可能です。
3-3 健康保険組合の付加給付
大企業などの健康保険組合の一部では、国の高額療養費制度とは別に、独自にさらに低い自己負担上限額を設定している場合があります。これを付加給付と呼びます。
- 例: 国の制度で上限が80,100円でも、組合の付加給付で月25,000円を超えた分は全額払い戻し、など。
- 加入している健康保険組合に必ず確認しましょう。
3-4 高額長期疾病の特例
人工透析が必要な慢性腎不全、血友病、HIV感染症(抗ウイルス剤を投与している場合)の3つの特定疾病で長期治療が必要な場合、「特定疾病療養受療証」を提示することで、自己負担額が月額1万円(所得により2万円)に抑えられます。
3-5 高額介護合算制度
医療保険と介護保険の両方で自己負担が発生している世帯を対象に、年間(毎年8月1日〜翌年7月31日)の医療費と介護費の自己負担額を合算し、上限額を超えた分が支給される制度です。

4. 自己負担額の計算と還付の流れ
4-2 月単位での集計が重要
高額療養費制度でいう「月」は、暦月(1日から末日まで)です。
🚨 月をまたぐ入院に注意!
同じ医療費総額でも、月をまたいで入院・手術を行うと、それぞれの月に上限額が適用されるため、自己負担額が約2倍になることがあります。
- 例: 医療費総額200万円(区分ウ)の場合
- 11月中に完結: 実質負担額 97,430円
- 11月と12月に分割: 実質負担額 174,860円
- 手術日程を調整できる場合は、同一月内に収まるように検討すると負担が抑えられます。
5. 還付申請手続きの流れ(加入保険別)
高額療養費の払い戻しを受けるには、加入している保険者への申請が必要です。
| 加入している公的医療保険 | 申請先 | 補足 |
| 健康保険組合 | 組合へ | 勤務先の人事・総務に確認。 |
| 協会けんぽ | 都道府県支部へ | 診療月の約3か月後に申請書が届くことが多い。 |
| 国民健康保険 | 住所地の市区町村へ | 市役所・区役所の窓口で手続き。 |
| 後期高齢者医療制度 | 住所地の市区町村などへ | |
| 共済組合 | 勤務先の共済へ |
6. 事前申請で窓口負担を抑える方法
高額な医療費を一時的に立て替える必要がなくなる「事前申請」の方法です。
6-2 マイナ保険証を用意する
マイナンバーカードを健康保険証として利用する「マイナ保険証」は、限度額適用認定証の代わりになります。
- 医療機関の窓口でマイナ保険証を提示し、限度額情報の表示に同意すれば、限度額適用認定証がなくても、支払いが自己負担限度額までで済みます。
- 事前に認定証の申請・取得をする手間が省け、有効期限の更新も不要です。
6-1 限度額適用認定証を用意する
マイナ保険証を利用しない場合は、事前に加入している保険者に申請し、「限度額適用認定証」を取得します。これを窓口で提示することで、支払いが自己負担限度額までとなります。
7. 高額療養費制度を理解したうえでの医療保険の見直し戦略
7-1 公的制度を前提にリスクへ備える
高額療養費制度により、保険診療の医療費には明確な上限が設定されています。そのため、医療費のリスクに備える際は、まず「公的制度でどこまでカバーされるか」を把握することが合理的です。
- 現金で備えるリスク: 高額療養費制度が適用された後の自己負担限度額(約8万円〜30万円)を支払えるよう、生活防衛資金として現金を準備する。
7-2 民間医療保険の役割を理解する
民間医療保険は、「公的制度でカバーされないリスク」を補完するために活用しましょう。
- 民間保険がカバーする主なリスク
- 高額療養費の対象外費用: 差額ベッド代、先進医療の技術料、食事代など
- 収入減の補填: 入院や療養で働けなくなったときの生活費
公的制度の範囲内は貯蓄で、範囲外や収入減のリスクは民間保険で、と役割を分担して考えることが、合理的な保険見直しにつながります。
9. 自営業者の備え方
自営業者やフリーランスの方は、会社員と異なり傷病手当金がないなど公的保障が手薄です。
- 収入減への備えが重要: 働けなくなったとき、即座に収入が途絶えるリスクが高いです。
- 短期の療養には「所得補償保険」
- 長期の療養には「就業不能保険」
- これらを組み合わせて、公的保障が手薄な部分をカバーしましょう。
- 事業用の予備資金: 個人の生活防衛資金とは別に、事業を維持するための固定費(6ヶ月〜12ヶ月分)も確保しておく意識が不可欠です。
🙌 次のステップ
あなたの所得区分や家族構成を考慮して、具体的な自己負担限度額をシミュレーションしてみましょう(-。-)y-゜゜゜ 年初から年末までに高額の医療費を支払いした時には「医療費控除」の申告もわすれずに!!
