夏の厳しい暑さによる熱中症は、誰にでも起こりうる危険な症状ですが、特になりやすい人とそうでない人がいるのをご存知でしょうか。その鍵を握るのが「暑熱順化(しょねつじゅんか)」です。ここでは、熱中症のリスクを高める要因と、暑さに負けない体をつくるための生活習慣、そして具体的な対策について詳しく解説します。

1. 暑熱順化とは?熱中症とは? なぜ重要か?
暑熱順化(しょねつじゅんか)とは?
- 体が暑さに慣れることです。暑い日が続くことで、体は汗をかきやすくなったり、皮膚の血流を増やしたりして、上手に熱を逃がせるように変化します。この状態を「暑熱順化ができた」と言います。
- 暑熱順化ができてくると、同じ暑さの中でも体温が上がりにくくなり、心臓への負担も軽くなります。つまり、熱中症になりにくくなります。
- 個人差はありますが、暑熱順化が完成するには数日から2週間程度かかると言われています。
熱中症とは?
高温多湿な環境に体が対応できず、体内の水分や塩分のバランスが崩れたり、体温調節機能がうまく働かなくなったりして起こる、様々な症状の総称です。めまい、立ちくらみから、けいれん、意識障害まで、重症化すると命に関わる危険な状態です。
- 汗をかきやすくなる: より低い体温で汗をかき始め、汗の量も増えます。これにより、気化熱で効率的に体温を下げられるようになります。
- 汗の質が変わる: 汗に含まれる塩分(ナトリウム)の量が少なくなり、体内のミネラルバランスが崩れにくくなります。
- 血液量が増える: 体内の血液量(特に血漿量)が増加し、皮膚の血管に多くの血液を送れるようになります。これにより、体内の熱を外に逃がしやすくなり、心臓への負担も軽減されます。
この準備ができていないと、いざ猛暑になった時に体温調節が追いつかず、熱中症を発症しやすくなります。

2. 熱中症になりやすい人・なりにくい人の特徴
ご自身のタイプを知ることが対策の第一歩です。
特徴 | 熱中症になりやすい人 | 熱中症になりにくい人(暑熱順化ができている人) |
体質・年齢 | ● 高齢者 (体温調節機能や喉の渇きを感じる機能が低下) ● 乳幼児 (体温調節機能が未発達) ● 肥満気味の人 (皮下脂肪が熱の放出を妨げる) ● 持病のある人 (心臓病、糖尿病、腎臓病、精神疾患など) | ● 日常的に運動習慣がある人 (汗腺機能が活発) ● 筋肉量が多い人 (筋肉は体内の水分を蓄えるタンクの役割も果たす) |
生活習慣 | ● 運動不足の人 (汗をかく習慣がない) ● 睡眠不足や疲労が溜まっている人 (自律神経が乱れ、体温調節がうまくできない) ● 朝食を抜くなど、栄養が偏っている人 (体内の水分やミネラルが不足しがち) ● 二日酔いの人 (アルコールの利尿作用で脱水状態にある) | ● 規則正しい生活を送っている人 (自律神経が整っている) ● バランスの取れた食事を摂っている人 ● こまめな水分補給が習慣になっている人 |
環境 | ● 暑さに慣れていない人 (例:涼しい地域から引っ越してきたばかり) ● 屋外で長時間作業する人 ● エアコンのない環境にいることが多い人 | ● 暑熱順化のためのトレーニングを済ませている人 ● 暑さ指数(WBGT)などを参考に、適切に環境を調整できる人 |

3.【重要】生活習慣と注意すべきタイミング
暑熱順化を効果的に進め、熱中症リスクを管理するための具体的な生活習慣と、特に注意すべきタイミングです。
暑熱順化のための生活習慣(いつから始める?)
- タイミング: 本格的に暑くなる前の梅雨時期~初夏に始めましょう。
- 方法:
- ウォーキング・ジョギング: 1回30分程度、少し汗ばむくらいの強度が目安です。できれば毎日、少なくとも週に5日程度行いましょう。
- 入浴: 湯船に浸かり、汗をかく習慣をつけましょう。シャワーだけで済ませず、ぬるめのお湯にゆっくり浸かるのが効果的です。
- サイクリングや筋トレなども有効です。
日常生活での注意点
- 睡眠: 寝苦しい夜は我慢せず、適切にエアコンを使用しましょう。タイマー機能を使い、就寝1〜2時間後に切れるように設定したり、28℃程度の高めの温度でつけっぱなしにするのがおすすめです。睡眠不足は熱中症の大きなリスク要因です。
- 食事: 1日3食、バランス良く食べましょう。特に、汗で失われるカリウム(海藻、果物、野菜)や、体を作るタンパク質を意識して摂ることが大切です。
- 水分補給: 「喉が渇いた」と感じる前に、こまめに水分を摂りましょう。目安は1日1.2L~1.5Lです。
特に注意すべき危険なタイミング
- 梅雨の晴れ間・梅雨明け: 湿度と気温が急上昇するため、体が対応できません。1年で最も熱中症に注意すべき時期です。
- 連休明け・休み明け: 生活リズムが乱れ、体力が落ちている状態で急に活動量を増やすと危険です。
- 午前中: 寝ている間に汗で水分が失われているため、朝から脱水気味になっていることがあります。活動前に必ず水分補給をしましょう。
- 体調不良の時: 風邪や下痢、二日酔いの時などは、脱水症状を起こしやすく、熱中症のリスクが非常に高まります。

4. すぐにできる!具体的な自己対策リスト
今日から実践できる対策です。
- 暑さ指数(WBGT)をチェックする
- 環境省の「熱中症予防情報サイト」などを活用し、その日の危険度を把握しましょう。「危険」「厳重警戒」の日は、屋外での活動を控える勇気も必要です。
- こまめな水分・塩分補給
- 室内や軽い活動時: 水やお茶(麦茶などカフェインのないもの)
- 屋外での運動や作業で大量に汗をかいた時: スポーツドリンクや経口補水液で、水分と塩分(電解質)を同時に補給しましょう。
- 涼しい服装を心がける
- 吸湿性・速乾性に優れた素材(綿、ポリエステルなど)を選びましょう。
- 襟元や袖口が開いた、風通しの良いデザインがおすすめです。
- 色は、熱を吸収しにくい白や淡い色を選びましょう。
- 外出時は「涼」アイテムを活用する
- 帽子や日傘で直射日光を避けましょう。男性も日傘の活用が推奨されています。
- 冷却シート、携帯扇風機、冷たいタオルなども有効です。
- 我慢せず、涼しい場所で休憩する
- 屋外では木陰やミストのある場所、屋内では冷房の効いた施設(店舗、図書館など)を積極的に利用しましょう。
- 体調の変化に気をつける
- めまい、立ちくらみ、頭痛、吐き気、倦怠感などは熱中症の初期症状です。少しでも「おかしいな」と感じたら、すぐに涼しい場所へ移動し、体を冷やして水分を補給してください。症状が改善しない場合は、ためらわずに医療機関を受診するか、救急車を呼びましょう。

5. もしもの時のために
- 熱中症の初期症状を知っておく: めまい、立ちくらみ、顔のほてり、筋肉痛、こむら返り、大量の発汗など。
- 応急処置: 症状が出たら、すぐに涼しい場所(日陰、冷房の効いた室内など)へ移動し、衣服をゆるめて体を冷やし(首の付け根、脇の下、足の付け根などを冷やすと効果的)、水分・塩分を補給してください。
- ためらわずに助けを呼ぶ: 自分で水分が取れない、意識がはっきりしない場合は、重症化している可能性があります。すぐに救急車(119番)を呼びましょう。
暑熱順化と日々の対策を組み合わせることで、熱中症のリスクは大幅に減らすことができます。今年の夏も健康に乗り切りましょう。